[丹羽政善コラム第53回]ビクター・オラディポ――遅咲きの努力家

[丹羽政善コラム第53回]ビクター・オラディポ――遅咲きの努力家

大学時代の地元インディアナに移った今季、その実力を開花させたビクター・オラディポ(インディアナ・ペイサーズ)の半生を辿る

「あいつは、この程度の選手だ」。

高校、大学で何度も耳にした。そのたびにビクター・オラディポインディアナ・ペイサーズ)は、それが間違いだと証明することをモチベーションとした。

2013年のドラフトでは全体2位。

「どうだ!」。

しかし、低迷するオーランド・マジックでは、毎年のようにヘッドコーチが代わり、それに対する適応を模索する毎日。コンスタントに二桁得点はマークしたが、チームを勝ちに導くには至らず、またこんな声が聞こえてきた。

「2位は過大評価だった」。

昨年6月、オクラホマシティ・サンダーを経て、大学時代を過ごしたインディアナへ。すると、ペイサーズで水を得た魚のように躍動。

今季が始まって間もない10月29日。ホームにサンアントニオ・スパーズを迎えて行なわれた一戦では、残り10秒で逆転3ポイントシュートを決めた。

振り返れば、彼のその後の活躍を予感させるような、劇的な1本だった。

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Victor Oladipo David Stern 2013 NBA Draft
2013年NBAドラフトでマジックから全体2位で指名され、コミッショナー(当時)のデイビッド・スターンと壇上で握手

5歳にしてNBAを夢見る

遅咲き――。高校でも大学でも、ビクター・オラディポはいつもそうだった。

「時間がかかるタイプなんだ(笑)」。

彼はインタビューで、たびたびそう口にする。

それでも、じっくりと力をつけ、覚醒する。

NBAでは、最初の4シーズンで1試合平均得点15.9点をマーク。シーズンごとに振り返ると、最低は1年目(2013−14シーズン)の13.9点で、最高は2年目の17.9点。その後も平均15点を下回ることなく、安定した力を発揮していた。

ただ、それ以下でも、それ以上でもない。2013年のドラフトでマジックから全体2位指名を受けた選手として考えれば、むしろ物足りない。

しかし今季、大学時代を過ごしたインディアナ州に戻り、ペイサーズのユニフォームを着るようになって爆発。12月に入ると、10日のナゲッツ戦で47点を叩き出すなど、クリスマスの時点で30点以上を5試合もマークし、チームが東地区4位と健闘する原動力となっている。

このままいけば、初のオールスターゲーム出場にも手が届く。

Victor Oladipo Pacers
今季は平均得点、平均リバウンド、FG成功率、3P成功率などでキャリアハイの成績。オールスター選出の可能性も十分だ

そんなオラディポがNBAを夢見たのは5歳のとき。「テレビでNBAの試合を見ていて」決意した。もっとも小学生の頃は、「満足に練習もできなかった」と振り返る。

アフリカのシエラレオネで生まれた父とナイジェリアで生まれ育った母は、アメリカに渡ってから結婚し、オラディポら4人の子供を授かると、ワシントンD.C.郊外のアッパーマルボロという街に移り住んだ。生活は苦しく、父はいくつもの仕事を掛け持ち。苦学して看護婦となった母は、夜勤が多かった。

必然、子どもたちだけで家にいることが多かったが、危険なエリアに住んでいたこともあり、学校が終わってから出歩くようなことは、父親から厳しく制限されていた。それでもオラディポ曰く、「親の目を盗んでジムで練習を続けた」結果、地元でバスケットボールの名門校として名高いデマーサ高校へ進学できるまでに、バスケット選手として成長した。

ところが、そこで最初の挫折を経験する。そのチームには、将来のNBA入りが期待されるような能力を持った選手――ハーベイ・グラント(元ワシントン・ウィザーズほか)を父に持つジェリン・グラント(シカゴ・ブルズ)、クイン・クック(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)、バイロン・アレン(トルコリーグ)ら――がおり、入学した当時、オラディポ級の選手など、掃いて捨てるほどいたのだ。実際、彼は4年生になるまで、スターティングメンバーに名を連ねることはなかった。

それでも、オラディポにポテンシャルを感じていたデマーサ高のマイク・ジョーンズ・ヘッドコーチは、彼にチャンスを与えようとキングストン・プリンスがヘッドコーチを務めるAAU(アマチュア体育連合)のチームを紹介。それがオラディポにとってキャリアの転機となった。


彼がドラフトされたとき、指名予定の選手とその関係者が待機する「グリーンルーム」にも招待されるほど絆を深めたプリンスHCは、米スポーツ有線局『ESPN」の取材にこう答えていた。

「彼はまるで、スポンジのようだった。言ったことをすべて吸収していく。彼は、人の話を真剣に聞いていた」。

もともと身体能力に恵まれ、必要なのはバスケットを理解することだったが、オラディポはAAUを通してそれを学んだ。

ディフェンスでもオフェンスでも、決して力を抜かなかった

必然的に彼の生活はバスケット中心となっていったが、彼が力をつければつけるほど、皮肉にもそれを阻止しようとする力が働いた。もともと、バスケットを趣味程度にしか見ておらず、息子の試合へ一度も足を運んだことのなかった父親が、そのことをよく思わなかったのだ。

遠征などで家を開けることが多くなると、成績が下がることを心配。プリンスHCが父親の説得にも出向き、オラディポ本人も、成績が下がればバスケットをやめさせられるため、必死だった。

その父親とは大学進学を巡っても対立。オラディポは、名門インディアナ大への進学を決めていたが、父親は中国へ留学することを望んだ。父親は父親なりに、息子の将来を考えての提案だったようだが、息子の選択肢に中国はなかった。最後は母親が父親を説得したそうだが、そうして確執が続いたのだ。

なお、進学先として最終的には納得してインディアナ大学を選んだが、リクルートの過程でオラディポは、屈辱を味わっている。

高校4年のときには、1試合平均11.9点、10.3リバウンドで、チームに貢献。カンファレンスチャンピオンにも導いた。それなのに、地元のジョージタウン大やメリーランド大から声がかからない。デューク大やノースカロライナ大などが所属し、大学のバスケット界をリードするACC(アトランティック・コースト・カンファレンス)のチームからも、誘いがなかった。その他大勢の一人に過ぎなかった高校1年のときから着実に力をつけたが、実のところ、彼はそこまで評価されていなかったのである。

それでも彼にとって幸運だったのは、インディアナ大のトム・クリーンHCが、彼の力を信じてくれたことか。

「8歳のときに初めて、オラディポを見た」というクリーンHCは当時、こんな印象を持ったそうだ。

「シュートは下手くそだったが(笑)、ディフェンスでもオフェンスでも、決して力を抜かなかった」。

Victor Oladipo Pacers
昨オフ、ポール・ジョージらとのトレードでサンダーからペイサーズへ移籍

大学に入った当初、まだオラディポのシュート力は高くはなかったが、それでも、ハッスルプレイでたびたび、チームのピンチを救っている。そのプレイスタイルは今も変わらない。

課題だったシュート力は、2年目、3年目と徐々に精度が増し、オラディポはより完成された選手となっていく。伴って低迷していた古豪インディアナ大が復活。彼が入学した2010−11シーズンは12勝20敗だったが、2年目は27勝9敗、3年目は29勝7敗でNCAAトーナメントに出場。いずれもベスト16止まりだったものの、彼の成長とチームの成長は見事にリンクした。

2013年4月、オラディポはNBAドラフトにエントリーすると、6月、マジックから全体の2位指名を受けた。

ついに彼は、正当な評価を受けたのである。

ところでこのとき、ずっとバスケットを続けることに反対していた父親はグリーンルームにこそ姿を見せなかったものの、客席で様子を見守っていた。オラディポが探していると視線が絡む。微笑む父親に、息子は軽く敬礼のようなポーズを取った。

それまでの確執が、静かに溶解した。

ペイサーズに移籍した今季、開幕前に、ひたすら練習する様子が紹介された。なぜ、そこまで自分を追い込むのか。地元記者に問われたオラディポは、こう答えている。

「両親の影響かな。ずっと、両親が一生懸命働く姿を見てきた。彼らに言われたんだ。人にために何かをしようとするなら、一生懸命、練習しなさいって」。

働き詰めだった両親の背中を追うように彼は今、妥協なき日常を送る。

文:丹羽政善

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