[丹羽政善コラム第58回]ジェイソン・テイタム――セルティックスの未来を担うスタールーキー

[丹羽政善コラム第58回]ジェイソン・テイタム――セルティックスの未来を担うスタールーキー

故障者が多発し、プレイオフでの苦戦を予想されたセルティックスを見事あと1勝でNBAファイナルというところまで導いたルーキー、ジェイソン・テイタムの半生を振り返る

カイリー・アービング(ボストン・セルティックス)が、3月24日に左膝を手術した当初、プレイオフには間に合うとされていたが、4月5日になって今季絶望となることが判明。その瞬間、セルティックスがプレイオフを勝ち抜くというファンの望みは、一気にしぼんだ。

ところが彼らは、ファーストラウンドでミルウォーキー・バックスを退け、セカンドラウンドでは成長著しいフィラデルフィア・76ersを一蹴。カンファレンス・ファイナルでも一時は3勝2敗とリードし、クリーブランド・キャバリアーズを追い詰めている。

その原動力となったのが、昨年のNBAドラフトで1巡目指名(全体3位)を受けた新人、ジェイソン・テイタムだ。

プレイオフでは新人としては史上2位タイとなる7試合連続の20得点以上を記録。また、プレイオフでの総得点351も、ルー・アルシンダー(のちのカリーム・アブドゥル・ジャバー)が1970年に記録した352点に惜しくも及ばなかったものの、ルーキーとしては史上2位の記録となった。

おそらくテイタムがいなければ、セルティックスは1回戦突破がやっとではなかったか。

セルティックスは、今季の開幕戦で新加入のゴードン・ヘイワードをケガで失い、のちにアービングも欠いたが、もしも来季、彼らが噛み合えば、他チームは手に負えなくなる――。テイタムの成長は、そんな期待をファンに抱かせるのに十分だった。

Jason Tatum Celtics
プレイオフではあと1勝でNBAファイナルに進出できるところまで躍進したセルティックスの原動力に

ジェイソン・テイタム、新たなスターの誕生

セルティックスファンに無情のブザーが鳴り響く。5月27日、TDガーデンで行なわれたキャブズとのカンファレンス・ファイナル第7戦。終盤、何度かチャンスがあったが、ことごとく3ポイントシュートが外れ、キャブズに屈した。

ただ、アリーナ全体を覆ったのは失望だけではない。希望もまた、溢れていた。

ジェイソン・テイタム――。この1か月、新しいスターの誕生に街は熱狂した。

試合が終了したその瞬間、キャブズのレブロン・ジェームズもまた、その新たなスターの姿を探していた。8歳のとき、父親の親友で、名付け親でもあるラリー・ヒューズ(元キャブズほか)に連れられてキャブズの練習を見学し、ジェームズのシュート練習で球拾いをしたこともあるというテイタムを見つけると、抱きしめて耳元でささやく。試合後、ジェームスはテイタムに対して最大級の賛辞を口にした。

「彼のすべてが素晴らしい。僕は、彼の両親を知っているが、彼はスターになるよう育てられた。成功するために育てられたんだ」。

その両親――。実のところ父親のジャスティンは、「我々は、いい父親と母親ではなかった」と振り返る。

母親のブランディが、妊娠していると分かったのは18歳のとき。高校の卒業式から1週間後のことだった。そのときしかし、2人は別れた後。母親は、女手一つでテイタムを育てなければならなかった。

それは予想通り、困難を極めた。父親が高校でもチームメイトだったヒューズとセントルイス大学でNBA入りの夢を追う一方、母親はバレーボールで奨学金をもらってテネシー大に進学する予定だったが、それを断念。地元にとどまってミズーリ大セントルイス校に進学すると、ときにテイタムを連れて大学に通った。

そして、授業料、生活費を稼ぐために、アルバイトを掛け持ち。大学を卒業するのに8年を要し、ガスや電気を止められ、家を追い出されそうになったこともあるという。だが、必死に働く姿を見て育ったテイタムにとっては、そのことが、練習でも妥協せず、ひたむきにバスケットボールに取り組む原動力になったのかもしれない。その意味では、ジェームズの言葉は正しかった。

Jason Tatum Celtics
デューク大学を1年で中退し、2017年のNBAドラフト全体3位でセルティックスに指名された

一方、父親のジャスティンは大学卒業後、オランダのリーグでプレイ。2006年――テイタムが8歳のとき――にセントルイスに戻ってくると、高校の体育教師となり、バスケットボール部の指導を始めた。同時に、息子のコーチを務めるようになった。

テイタムは当時、すでに地元では知られた存在になっていた。3歳のとき、地元にあるYMCAの5歳のバスケットボールリーグに参加すると早くも頭角を現し、ほかの親が年齢を偽っているのではないかと訴えるほどだった。年上ではないかと疑ったわけだが、実際は年下だった。

そんな才能を父親が、最大限に伸ばす。基本を徹底させ、ゲームの流れを理解させた。選手としては大成しなかった彼だが、コーチとしては非凡なものがあったのかもしれない。


そうして親子二人三脚が続いたある日、父親はテイタムに特別な能力があると確信する。当時彼は、セントルイスのリーグでプレイしていたが、あるとき人が足りず、まだ11歳の息子を出場させた。するとその試合で、テイタムは22点をマークした。大人たちを相手にネットを揺らし続けたという。

ブラッドリー・ビール、タロン・ルーとの親密な関係

同じ頃、テイタムのポテンシャルにブラッドリー・ビール(ワシントン・ウィザーズ)も目をつけた。セントルイス出身で、5学年上のビールは、小さな頃からテイタムを気にかけ、学校が終わると、練習に誘った。また、自分のパーソナルトレーナーでもあるドリュー・ハンレンを紹介。まだ中学生じゃないか、という理由で、当初テイタムの指導を拒んだハンレンにビールは言った。

「彼はマジック・ジョンソンになるかもしれない。ケビン・デュラントのようなスコアラーになるかもしれない。僕を信じてくれ」。

この2人の繋がりはユニークだ。テイタムの母ブランディが高校時代にバレーボールをしていたことにはすでに触れたが、その高校のチームのコーチがビールの母親だった。ブランディはビールが幼い頃、ベビーシッターをしたこともあるそうだ。ラッパーのネリーもビールの母親の教え子で、幼いビールの面倒を見ていたというから、狭い世界である。

Jason Tatum Celtics Bradley Beal Washington Wizards
5歳年上のビールは早くにテイタムの才能を見出し、コーチを紹介するなど弟のように世話を焼いた

いずれにしても、家族ぐるみの付き合いを通して、まるで兄弟のように育った2人は、バスケットボールを通じてさらに絆を深めていく。高校生のテイタムが試合をしているとき、サイドラインにビールがいることも、少なくなかった。

そしてもう1人、テイタムのことを、小さな頃から見守ってきた人物がいる。

キャブズのタロン・ルー・ヘッドコーチだ。彼は今年5月、テイタムの父親といとこ関係であることを明かした。

「毎年、独立記念日になると、親戚一同、私の家(ミズーリ州メキシコ)に集まって、一緒にバーベキューパーティをしながら、花火を見るんだ(※アメリカでは独立記念日に花火を打ち上げる習慣がある。地元の花火大会にはルーが資金提供しているという)。ジェイソン(テイタム)が初めて家に来たのは6歳か7歳のときだったと思うけど、あのときのリトル・ジェイが、こんな選手になるとはね」。

よって、今回のセルティックス対キャブズのカンファレンス・ファイナルは、彼らにとって複雑なマッチアップだった。相手ヘッドコーチの立場として、ルーはテイタムを応援することはできない。しかし、身内の1人としては、活躍して欲しい。テイタムの父親にしても、息子が一番だろうが、いとこにも勝たせたい。戦いの裏で、そんな葛藤があった。彼らのファミリーにとってうれしい悩みではあるけれど――。

さて、ここで改めてジェームズの言葉を振り返ると、テイタムをここまで育てたのは、両親だけでなく、多くが見守り、成功のお膳立てをしてきたからであることがわかる。

ただ、ヒューズに連れられてやってきた少年と一緒にカメラのフレームに収まり、頑張れと声をかけ、「いつかは、同じコートで」とテイタムに決意をさせたジェームズもまた、その1人なのかもしれない。

第7戦の第4Qクォーター、テイタムはジェームズの頭越しにダンクを決めた。

「クリーブランドでやられたからね」。

テイタムが独り立ちした瞬間でもあった。

文:丹羽政善

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